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土夜の摩天楼

愛に溺れてオーバードーズ

溺れるナイフ~十代に刺さる何か

映画 分析 感想

私と同じ十代の皆さんに何を掴み取ったのかお聞きして回りたいくらい抱えきれない壮絶なものでした。まだ見てない方は何も怖いことないから正面からぶつかってきてほしい。

  • 私が感じた強いコンセプト

リアルと夢幻の対比
・発光した夏芽、コウ⇔生々しい大友、カナ
・コウが強姦犯を殺してくれる夢と火祭りとの走馬灯のような映像
・夏芽が賞を受賞した後のバイクの交錯した映像

  • 気に止めたシーン備忘録

呼吸音
下駄箱でお節介
品のないお弁当
椿と大友
光のバッティングセンター
眉毛の御見舞シーン
夏芽の揺らぎネイル
垢抜けたバスと階段の踊場
俺が笑わせちゃるけえカラオケ
ナイフが海に溺れ落ちて行くシーン
ラスト海も山も全部コウちゃんのものなんだ


私が最も気を揉んだ人物。どんなにカナちゃんが二人の関係を尊厳し気にかけたってどんなにカナちゃんが垢抜けたってには夏芽はちっとも目もくれなくって。私がもし映画しか見ていなくてカナちゃんに興味を持たなければカナはただのお節介で意地の悪く成長した田舎じみた女の子に見えたかもしれないけど原作にはもっとコウちゃんとカナちゃんの2人だけのシーンがいっぱいあった。このふたりのシーンは何処と無く気分も良くなくて同情も誘えないようなまあ夏芽ちゃんと比べたら笑、みたいな存在で。只この映画にはカナとコウちゃんのシーンはたった一握りしかなくて、だってそれが夏芽から見た溺れるナイフであるから。哀しい程に映画を見た私もカナちゃんには目もくれないような錯覚に陥っていた。夏芽を襲った強姦犯を殺そうとするコウちゃんを衝動的に止めるカナちゃんに目もくれない2人だけの世界は余りにも辛すぎた。もうコウちゃんに会わないでくれと、ナイフを溺れさせたのもカナちゃんだ。それを何故だか私は嬉しいと最後の憎らしい表情を見て思った。


そして大友勝利。重岡くんがロストしていた1年の埋め合わせ。何かを悟ったような大人の表情を時折見せるようになった彼の謂れ。コウちゃんとの衝動のコントラストが激しくてすーっと詰まった息がほぐれて溶けていく感覚がした。「アンニュイな顔してるな」ってあんにゅいが言いづらそうでというかあんな田舎もんがアンニュイなんて言葉好きな女の子に使うのなんてそうそうなくてちょっと恥じていて夏芽の欲する承認欲求なるものを満たそうとする懸命な男の子感が堪らなく好きだ。誠実で素直で強か。重岡くん本人との共通項でもある誠実さ。だけどその相手を笑顔にさせたい根本が夏芽とどこか釣り合わない。大友は夏芽を笑わせることができても輝かせ衝動的にさせることは出来ない。ナツメの目には大友は映らない。その報われない衝動で一心不乱に歌う吉幾三さんの「俺ら東京さいぐだ」。とにかく熱量が凄くて正直原作の大友より熱くてこの浮世離れしたお話に珍しく共感を誘う場面。ただ、原作よりカナと大友は良いように描かれていると思う。映画の大友は良い奴過ぎるし原作のカナはもっと意地汚い心情が見え隠れしてる。監督さんの技量で夏芽視点の綺麗な溺れるナイフが仕上がっている。少年期から皮を剥ぐ瞬間を収めてもらった重岡くんや上白石さんを不覚にも羨んでしまう、山戸監督に撮られる女の子になりたかったと。この感想は自分が感じた中で1番十代の煩わしいデリケートさが出ているのではないか。


なんだろうな〜主役2人より大友くんとカナちゃんの印象が色濃く残ってるからもうこれは、、、

上映後こんなことを呟いたけどこれは決してコウとナツメのシーンが薄かった訳ではない。お互いヒリヒリして受け止められない部分が大きくてどちらも凄くて遠くまで行ってしまう。ナツメとコウちゃんのシーンは息が苦しくて頭がフラッシュしたような感覚であまり記憶に残っていない。この2人のシーンが1番目が離せなくてインパクトが強いのに。いや私には過ぎたのかもしれない。それ位現実感がなくてヘビーさに正に溺れて息ができない。ナイフを眼前に突きつけられたような。それに対照的に照らし出される大友の暖かさは吊り橋効果で善い安心感を与える。


正直、十代半ばの私には分からないこと抱えきれないことが多すぎた。だけど、周りの大人達は十代の私が羨ましい、夏芽ちゃん達みたいな全能感を持っている十代のうちに見たかったという。私は現実をひた走る人間であるから今回の作品ではカナと大友の機敏に震えた。いや寧ろ夢幻の世界は自分とは無縁だと思う人は多い筈だ。映画を見ただけなのに経験したわけではないのに何かを得られたような、これからの人生の糧になるような気分になったのは何故か自分なりに考えた。



愛を超える自分だけの神様*1を信じて衝動に突き動かされるのもありなのかもしれない。いや、突き動かされるような何かに出逢いたいと。



だけどやっぱりもう一度全能感を失った時、心の底からこの宝箱を嗚呼、羨ましいと思ってみたいとも思う。

*1:神様とまでは行かなくても何か自分が心惹かれるもの